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シンガポールで、データセンターの省エネ基準とクリーンエネルギーの利用要件に法的拘束力を持たせる法律が成立した。こうした法制化は東南アジアで初めて。人工知能(AI)の普及に伴う計算需要の拡大が、同国の土地や電力、水資源を圧迫する中での措置となる。
国会で10月7日に可決されたデジタルインフラ法案は、既存・新設を問わず、基幹IT機器の電力負荷が3メガワット(MW)以上の全てのデータセンターに対し、デジタル開発・情報省傘下の情報通信メディア開発庁(IMDA)による許可の取得と、省エネ基準の順守を義務付ける。基準はIMDAが随時見直せる。事業者が掲げたグリーンエネルギーの導入公約についても、履行を求めることが可能になる。
2024年のデータセンターの電力消費量は約6.5テラワット時(TWh)で、シンガポール全体の1割強を占めた。2020年の約7%から上昇しており、新規の設備容量が制限される中でも消費は拡大した。
シンガポールは政策を見直すため、2019年にデータセンターの新規開発を凍結した。2022年の再開以降、2回の競争入札で計約280MWを割り当てたが、国内の既存設備容量1.6ギガワット(GW)と比べれば一部にとどまる。このほか、戦略的投資家には個別審査で追加の設備容量を認めてきた。いずれの割り当てにも、省エネ性能とグリーンエネルギーの利用に関する条件が付されている。
新法はこうした条件に法的強制力を持たせるとともに、商用規模の全施設に拘束力のある省エネ基準を適用する。グリーンエネルギーの導入公約を確実な需要へと転換し、供給体制の整備に先行してクリーン電力の需要を生み出す狙いだ。
タン・キアットハウ上級国務相(デジタル開発・情報担当)は国会審議で、「可能な限り全てのデータセンターの設備容量を誘致しようとしているわけではない」と説明。一方で、これは「成長に恣意的な上限を設けるだけという意味ではない」と述べた。審議では、シンガポールの競争力への影響や、老朽施設を改修する事業者への支援、データセンターの需要拡大が電気料金に及ぼす影響などについて議員から質問が出た。
電力と水の利用効率を法規制
シンガポールは2019年の新規開発凍結以降、データセンターに対する規制を段階的に強化し、入札のたびに条件を厳格化してきた。新法は、これまで入札に付されていた条件を業界全体のルールとして制度化する。
新規開発凍結から許可制導入まで
2019年: 政策見直しのため、データセンターの新規開発と用地供給を凍結。
2022年: 凍結を解除。電力使用効率(PUE)1.3以下の施設を対象に、最大60MWを割り当てる試験的な入札を実施。
2023年: 20件超の提案から4事業者を選定し、計約80MWを割り当て。
2024年: 「グリーン・データセンター・ロードマップ」を策定。環境配慮型データセンター向けに、少なくとも300MWの設備容量を追加する方針を提示。
2026年: 第2回入札で、ジュロン島の4事業者に計200MWを割り当て。PUE1.25以下と、エネルギーの少なくとも50%をグリーンエネルギーで賄うことを条件とした。10月にはデジタルインフラ法が成立。
許可を受ける事業者はまず、施設全体のエネルギー消費量をIT機器のエネルギー消費量で割った電力使用効率(PUE)で測る省エネ要件を満たす必要がある。国内の約70施設を対象に、クラウド向け、コロケーション型、企業の自社利用型のいずれにも適用する。設備容量10MW以上の大規模施設には、セキュリティーと強靱性に関する別の許可も必要になる。
水の利用効率も規制の対象となる。年間使用量が6万立方メートルを超えるデータセンターには既に、シンガポール公益事業庁(PUB)が大口利用者向けに定める節水措置の実施義務がある。新法はさらに踏み込み、IMDAが既存・新設のデータセンターに水利用効率の要件を設定できるようにする。
法律自体にはPUEの目標値や達成期限は盛り込まれていない。これらはIMDAが策定中の規則で定める。それまでは、ロードマップに掲げる全施設のPUEを1.3以下にする目標は、努力目標にとどまる。既存事業者は法施行から6カ月以内に許可を申請しなければならない。政府は、事業者の投資や減価償却の周期を考慮しながら、段階的に基準を引き上げる方針を示している。
アジア有数の厳格な基準 既存施設の達成期限は未定
中国は2022年11月以降、新設・改築・増設するデータセンターにPUE1.5以下を義務付けており、現在はこの強制国家標準の厳格化を進めている。ドイツのエネルギー効率法は、既存のデータセンターに2027年までにPUE1.5以下、2030年までに1.3以下の達成を義務付ける。2027年からは、全てのデータセンターの電力を再生可能エネルギーで賄うことも求める。日本は大規模事業者に対し、2030年度までにPUE1.4以下を目指すよう求めている。
近隣国のマレーシアでは、データセンターの省エネ指針は全て任意となっている。ただし、ジョホール州は事業の承認に当たり、水使用効率(WUE)1.8を満たし、水供給を確保できることを示すよう求めている。タイは、事業者に許可の取得を義務付ける法案について意見を募っている。
シンガポールが新規設備に求めるPUE1.25以下は、アジアでも特に厳しい水準だ。ただし、ドイツや日本と異なり、既存施設などを含む業界全体の達成期限はまだ設けていない。また、クリーンエネルギーの利用要件は、入札で割り当てた設備容量と戦略的投資家に限って適用する。
規制を通じクリーンエネルギーの拡大促す
新法により、クリーンエネルギーの導入公約は初めて法的拘束力を持つ。IMDAは、事業者が入札時に約束した省エネ性能やグリーンエネルギーの導入目標を許可条件に盛り込めるようになる。違反した場合、制裁金の上限は100万シンガポールドル(約78万900米ドル)、またはシンガポール国内の年間売上高の10%のうち、いずれか高い額となる。ただし、グリーンエネルギーの導入目標が適用されるのは、入札で割り当てた設備容量と戦略的投資家に限られ、それ以外のデータセンターには同様の義務は課されない。
最初に影響を受ける事業者には、8月にジュロン島で計200MWの割り当てを受けたデジタル・リアルティ、エクイニクス、ケッペル・データセンターズ、STテレメディア・グローバル・データセンターズの4社が含まれる。割り当ては各社50MW。いずれもPUE1.25以下を達成し、エネルギーの少なくとも50%を、対象として認められたグリーンエネルギー源などから調達すると約束した。エコビジネスの試算では、施設がフル稼働した場合、必要なクリーン電力は年間最大約1.1TWhとなる。
シンガポール経済開発庁(EDB)によると、事業者はバイオメタン、低炭素アンモニア、低炭素水素、炭素回収設備を備えた燃料電池、施設一体型の太陽光発電などを通じて目標を達成できる。太陽光と国内の廃棄物由来の一部のバイオメタンを除けば、こうした選択肢は輸入燃料への依存度が高い。ケッペル主導の企業連合は、海外から輸入する低炭素アンモニアを燃料とする55~65MWの発電所をジュロン島に建設する計画を検討しているが、2025年10月時点で建設は決定していなかった。
入札条件によって生まれるクリーンエネルギー需要を、シンガポールは現時点では十分に満たせない。ジュロン島を管理するJTCは、同島のデータセンターパークを、安定した需要を確保し、それに応える供給網の構築を後押しする拠点と位置付けている。タン上級国務相は、低炭素エネルギーの選択肢が「なお進化の途上にある」中で、政府は特定の技術に固定したくないと説明した。新法はまず需要を生み出し、供給が後から追い付く余地を残している。
規制が実際にどこまで厳しいものになるかを見極める最初の機会は、IMDAが意見公募に向けて規則案を公表する時となる。公表は今後1年以内が見込まれている。

